森源は、嬉しそうに、また小鼻に皺を寄せ、
「いや、田舎者ですよ、ただ僕の、いわば趣味であんな恰好をさせているんですよ」
「ほほう、驚きましたね、そんな芸当もするんですか、私はまたただの変人――」
といいかけて、あわててあとを呑んでしまつたけれど、森源は、苦笑して、
「あなたも聞かされて来ましたか、変人というのは交際ぎらいの僕にはいい肩書ですよ――」
森源は、自分で自分を変人にしているのだ。なるほど、これは頭のいい方法に違いない。
「どうです、ここは暑いから家へ行ってお茶でも――」
「ええ、私だけは交際をしてくれるんですか」
「皮肉ですね」
「いやいや、そういう訳じゃないんです。交際を、お願いしているんです……」
私は、少ししどろもどろだった。家へ行けば、あのルミという美少女がいるであろう、という期待を、見透かされまいとする気持が、逆に妙なことをいってしまったらしい。
森源は、先に立って、温室を通り抜けた。そして、玄関にかかると、自然にドアーが開いて、我れ我れはポケットに手を入れたまま這入ることが出来た。
(ルミがドアーを開けてくれたのか)
と思って、つッと振返えって〔ママ〕みたが、ルミの姿はなく、しかも、ドアーは元通りぴったりと閉っているのだ。
廊下を通って、書斎らしい部屋に行った。その時も我々はドアーに手をふれなかった。そればかりではない、そのドアーには把手が附いていないのだ。
「自動開閉ですよ」
森源は、私の不審そうな眼に答えた。
それから気をつけてみると、どうやらこの家は、あらゆる方面に、極度に電化されているらしいことがわかった。気温が一定度より降れば冷房装置が働き、昇ればすぐまた冷房機が調節する、
おそらく、森源自身が手を煩わさなくてはならんのは、ネクタイを結ぶことくらいであろう。顔を洗うのでさえ、洗面台に顔を出せば定温水が噴出して来て、具合よく洗い流してくれるというのだから――。
「どうも、まるで科学小説の中の人物みたいですね」
いつか私は「そうかね」式の言葉から「ですね」に改ってしまった。そして、壁から飛出して来た一つの椅子に腰をかけ、テーブルの上のタバコ盆の蓋を取った。すると、バネ仕掛のように、最初の一本が浮上って来たけれど、手を伸してみると、それには、ちゃんと火が点いているのであった。
私は、果してそれを、口に
「科学小説――」
聞きとがめたように、森源がそう呟くと、続けて、
「遠藤さん、といいましたね、――その科学小説というもの愛読されているんですか。そして、どう思います?」
「愛読、というわけでもないのですが、勿論きらいでもありません」
「そのきらいでもない、というのは所謂科学小説の架空性を好まれる――というのではないですか。いいかえれば、僕は、科学小説とは架空小説と同義語だといえると思うのです、一種の空想小説だともいえると思うのです。ひどい言葉のようですけど、今迄のは、殆どそういっていいと思うのですよ。例えば月世界旅行記、火星征服記、といったようなものはその興味あるテーマでしょう。しかしまた、その空想も"科学的にあり得ること、いつか為し得ること"と、いう所が大切なのです。例えば永久動力などいうのは、それが出来ない証明があるのですから、一寸科学小説とはいえませんね――おや、すると、矢ッ張科学小説と空想小説とは違うかな……」
森源は、一寸頸をかしげたけれど、すぐまた、
「――いや、いいのだ、ただ科学小説とは出来そうな空想をテーマにした小説、現在の科学でもってあり得そうな小説だ。そうでしよう?」
彼はやっと一息ついて、私にその科学小説の定義を呑込ませようとした。
「なるほど、そうですね、月世界旅行というのは面白い考えです――が、地球から出て、果して月にまで行けますかね。というのは地球から月までの距離を一とするとですね、地球の引力は月の引力の六倍だそうですから、その距離の六分の五まで行った時には、つまり月へもう六分の一だ、という所で、両方の引力が零になるわけで、