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Page:RanIkujirō-JinzōRen-ai-2001-ChūōKōron.djvu/12

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粧法も一大革命を受けるわけですね。このラバー・スキンという一種の肉面をつけることによつて、顔色でも、髪の生え具合でも自由自在なのですからね。しかも、これは毛穴の営む生理作用にも、なんの障害もないのです。

 早い話が、旧式医学によって、腿の皮膚を剝して顔の傷口を繕ったなどということは、真ッ先に、後を断つに違いありませんよ。

 瞳にしたって、その奥につけられてある光電子管の作用で、虹彩の絞りまで生理的にやってのけるんです。その他ラバー・スキンを張られた義手、義足等、皆ちょうど人間の場合の神経のように、ここでは電線が張りめぐらされていて、それに作用する電流で、御承知のような、完璧な動作をしますし、ジャイロスコープによって、彼女は、立つことは我々以上に安定しているんです……」

 そういえば、私にも思いあたることがあった。というのは、さっき私の胸に靠れかかったルミの体は、少女のように柔らかく、温かではなくて、しかも、心臓の鼓動とは違った響きを、たしかに感じたのであった。あの時の、奇妙な触感は、これであったのだ。

「――しかも、この電気人間ルミについて僕が第一に自慢したいのは、僕からルミへの命令伝達方法です。これは彼女の生命ともいうべきもので、昔の、玩具おもちゃみたいな人造人間のように、ちゃんと一個所に立ったままで、このスイッチを押せば右手を挙げ、このスイッチを押せば声を出す、といったような、有線操縦ではなくて、無線操縦よりも、さらにもう一歩進んだ、寧ろ、神秘的な、といった方がいいかも知れないが、"脳波操縦"という嶄新ざんしんな方法を採ったことですよ」

 森源は、昂然と眼を挙げた。

「脳波操縦――?」

 私は、思わず森源の眼を見かえした。

「そうです、脳波操縦です、恐らく、こんな言葉を、聞かれたことはないでしょう――無理もないですよ、これは私の作ですからね。これは、一言でいえば、人間が脳を働かすと、そこに一種の電気が起るんです。これは極く微細なものですけれど、鋭敏な電極をもって、その確かに存在していることが確められるばかりでなく、それを増幅して、オッシログラフに取ることも出来るので――。ところが、そのオッシログラフによって見ると、脳の発する電磁波つまり脳波は、声波と同様に変化するのを知ったのです。

 早い話が"よし"というのと"いな"というのでは、あきらかに声波が違います――違わなければ、判別出来ないわけですからね――と同じで"よし"と思い"いな"と思うと、その思うことによって生じた脳波は違って来るんです。その放射される脳波を、無線操縦と同じように、彼女がその頭の中にある受波装置で受けて増幅し、各機関を操縦する――、これが、脳波操縦なんですよ」

 森源は、一寸言葉を切って、私が、その話を了解しているかどうかを確め、

「だから、彼女ルミを操縦するには、私が、頭の中で"立て"と思えば立ち、"右手を挙げ"と思えば、右手を挙げるのです。私は、命令を口に出す必要はない、ただ、頭の中で、命令を考えればいいのです」

「ほう――」

 私は思わず感嘆の声を挙げてしまった。

 なんという精巧な電気人間であろう。

 問わず語らず、謂わば「以心伝心」で操縦することが出来るとは――。

 これこそ、全く人間以上! のものである。

 ……私は新たな眼をもって。先刻さっきから足元に倒れているルミを見下した。


人造恋愛


「ところが……」

 森源は、悲痛に、口元を歪めているのであった。

「ところが、このルミが、余りに精巧であったためでしょう、あなたは、このルミに、人並み以上の好感を持たれたようです――」

「…………」

 面映おもはゆくはあったが、私はそれを否定することは出来なかった。かすかに頷く私を見て、森源は、尚もいうのだ。

「そして、それ以上に不幸なことは、どうやらルミもまた、あなたに恋を感じているらしいのです」

「えっ――」

 私は、思わず森源を見上げた。

「でも……私がルミさんを、ルミさんがまさか電気人間だとは知らなかったから、美しいひととして、恋めいたものを感じたのは認めますけど、しかし、それにしても、哀しい機械であるはずの彼女が、私に恋をするなどとい