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Page:RanIkujirō-JinzōRen-ai-2001-ChūōKōron.djvu/11

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それでいて、一刻も早くここへ着こうとする激しい気力を感ずるような足取りなのであった。

 私は、すぐに二階からかけ下りた、そして、庭下駄を突かけ、道の中途までルミを出迎えた。

「まあ――」

 彼女は、そういうと、頰を、はげしく痙攣けいれんさせて、倒れかかるように、私の胸にもたれたのだ。私は、田舎道だとはいえ (あるいは人通りの尠い田舎道だったから余計に) 不意を打たれたルミの大胆さに狼狽しながら、

「ま、ここでは――さあさあ……」

 と家に、引ずるようにして連れて来た。

 その時、靠れかかったルミを、全身に受けながら、私は、奇妙な触感に一寸ばかり訝かしく思いながらも、かく家へ帰って、椅子にかけさせ、

「よく、来てくれましたね」

 やっと、ほっとしながらいった。

「…………」

 無言であげた彼女の顔は、何か非常な精神の混乱を示している泣き顔なのであった、それなのに、なみだは一滴も出ていなかった。泪のない、真面まともに見上げた泣き顔というのは、ひどく荒涼としたものであった。

「どうしました。水でも持って来ましょうか」

 さっぱり様子の呑込めぬ私は (森源と、喧嘩でもして来たのであろうか) と思いながら、ぽかんと突立っていた。

 ルミは、激しく左右にかぶりを振ると、

「あたし、おまえが好きなの、好きなの、好きなの……」

 そういって、キともクともつかぬ、母音のない奇妙な叫びをあげ、椅子から立上って、手を伸して来た。

 私は、思わず二、三歩たじろいで、

「ど、どうしたんですルミさん?」

 気を確かに、しっかりして下さい、と言おうとした時、案内も乞わずに飛込んで来た森源が、私の方には眼もくれず、

「ルミ、バカ!」

 そういって一生懸命に駆けて来たらしく、まだ息をはずませながら、睨みつけた。

 と、ルミは、そのまま硬直したように、床の上に、ガタンと倒れてしまった。その倒れた音は、まるで椅子が倒れたように、ガタンという音だったのである。

 ルミは、それっきり、微動だにしなかった。

 私は、怖る怖る森源の、血走った眼を見上げた。

「どうしたのです、一体――」

「…………」

 やっと私の方を振り向いた森源は、

「いやあ、失礼しました。お騒がせして済みません、とんだ騷ぎをしてしまって……」

「そんなことは一向に構いませんよ、だが、ひどい音をたてて倒れたようですが――」

「そうです、ちょうど、電気が切れたのです」

「えッ、電気が切れた?」

「おや、まだ気づかれなかったんですか、ルミ、このルミは私が半生の苦心を払って、やっと造りあげた電気人間なんですよ――」

「電気人間!」

「そうです、私が命よりも大切にしている電気人間なんです」

 私は、この時ほど驚いたことはなかった。たった今の今まで、私に好意をもってくれる美少女として、かすかながら好もしさを、いや、恋を覚えていた相手が、なん と電気人間であったとは――。文字通り愕然として、床に伸びているルミを見なおした。

 しかし、そう聞いても、まだルミが人造人間だとはうなずけなかった。

 なんという精巧品であろう、本物の人間の中にすら、ルミよりも粗悪品がかなりいるに相違ない!

「この美しい皮膚、瞳、これが人造でしょうか?」

「…………」

 森源は、そうです、というように、こっくりと頷くと、やがて思いきったように話し出した。一旦、口をきると彼の言葉は次第に熱を帯びて、想像もしなかったような、奇怪な事柄が、科学者らしいハッキリとした断定的な響きをもって、くり拡げられて行った。

「そうです、この皮膚は、極めて精巧なラバー・スキンです、恐らくこれだけでも一般に知れたならば、整形外科の大革命だといってもいいかも知れません。あざや火傷のひっつりは見事に修覆ママされるでしょうし、その他の顔に瘢痕のある人、ひどく顔色の悪い人なども、このラバー・スキンをつけることによって、見違えるような撥刺とした美しい容貌となることが出来るんです、つまり化