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〈昭和二一年、新涛〉
放蕩息子
東洋の
あおい囀りのなかにうづくまって
花守りの老爺は
この春――にせんろっぴゃくろっぺンの
としつきの花束を編んでいる
ほろりと熱いものが頬をぬらして
はっと気がつく
ああ 俺は泣いていたんだ
と、たちまちに嗚咽して
杳いむかしの花びらの
いちまい いちまいの儚さが
赤道越えて 帰ってくる。
傷つき破れた
神話のなかの
白い蝶が
おーい おーい
と群
追いすがる
追いすがる
大陸のはての蜃気楼などに――
花守の老爺は
しょぼしょぼとメガネの曇りをふきながら
日本の夕景を飽かず見まわしている
春は 惜しみなく
くさぐさの凋花を棄てて
放蕩息子のように
熾んなる夏の方向へ――
〈昭和二二年、新涛〉
あやつり神楽
凩の 手さばきが すこし乱れたばっかりに
秋雨の あやつり糸が 千々にからまり か
らまり狂い
おまえがわたしやら わたしが誰やら 誰が
誰やら
〈ぴいひょろ ぴいひょろ ぱるんちゃかち
ゃか〉
笛ふけば 葉を落とし 虔しくその葉を落と
し 敗日の
あやつり糸に ただに生きぬく いのちを托
し
裸に還る 樹々のこころが愛しゅうてならぬ
なり
〈ぴいひょろ ぴいひょろ ぱるんちゃかち
ゃか〉
さて 生きて二人 星は二六 菫は四〇
溺れ
柿噛めば 落睴冷え うたたねの恋のほろ渋
さよ
〈ぴいひょろ ぴいひょろ ぱるんちゃかち
ゃか〉
〈昭和二二年、新涛・兵庫詩人〉