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四季の風情とりどりに
愛情の雲 去来し
わが掌に、想うだに愉しき明日の太陽は昇る
 にぞ。

〈昭和十一年、深苑〉

ひびき

悲鳴をあげて黒暗やみ崩壊くずれはじめる。
夥しい菌類が頭を擡上もたげはじめる
すると 小っぽけな旋風が湿地の此處彼處に
 勃り

狂奔するあいつ
氾濫するあいつ
邂逅する、必然と、必然とが
いよいよ膨張する、上昇する、旋風。――
空間にスパークする
生きとし生きるものの 忿怒を 呪詛を
移動しつつ
  けれども極めて正確に時間に換算するも
  の、
例えば 貝殻類や昆虫達の零細な熱量にいた
 るまで
漸次 展開する科学の頁に
始終その破壊の愉しさを如実に記録するもの
 がある。

同志ともだち
やがて黎明ちかく
見よ 薔薇色の海の彼方を
羽搏きのような 足跫のような
無数の肩と肩とが相尅あいうつような
整爽な肉体の濤が響いてくるのだ。

〈昭和十二年、ヴァリエテ〉

美しき暴力

―あなさむし 絢爛として打碎く
 天も落ちこよ 地も裂けよ、恋
    久仁子の指輪も売りて―

爪は 耿として歳月の疵にとぼ
指は 抗として生活の嵐にささ
掌は 荒として人世の穹に聠り
天譴の星 冬夜蔓延はびこる悪徳の下界に堕ちて、
いまはすでに 紅花ひらく要もなく
涯しなき曠野に 絢爛の情痴も壊滅するか!
 紅玉の!

白皚皚 積雪の地底に凍て
その夜 拉犇と 飢え迫る 肉親たちの囁き

嗟嘆!
爪は 指は 掌は
拗くれの 節くれの 皺くれの
われら
焰のごとく 巨樹おおきのごとく 荒天のごとく

  奪る!
 摑む!
抛つ!
戞つとして 紅玉ルビの指輪
去らば 飢日の糧に打砕かんとする。

〈昭和十二年、日本詩壇〉

日本の忿怒

霧は雲と凝りつつ 薔薇色の黎明を粧い
低く 高く 次第に湧き昇るあの由々しい響
 を聞いたか。

前夜を徹して 一睡の交睫まばたきもしなかった。
忿怒のために あの光箭と降濯ぐ瞳の血気を