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同胞なるを以つて殊に然りとなす。何となれば之れ神の命令たればなり。余は諸君が此事を知らんことを欲す。而して余の信ずる所に由れば、今日に至るまで國家に起りたる事變中、余が神に事へたるよりも大なる善は他にあらざるべしとなす。何となれば余の爲したる所は老若一般共に其自己一身或は金錢財貨の爲めに心を奪はるゝことなく、たゞ先づ主として精神の至大なる進步を心とせんことを勸吿したるの他あらざればなり。余は諸君に吿げん、德義は金錢に由つて得らるべきものに非ずと雖、德義よりこそは、金錢も、人間に關する公私一切の衆善も得らるゝなりと。之れ余の敎ふる所なり。若し此敎理にして靑年を腐敗せしむるものなりとせば、嗚呼余の感化の及ぼす所は甚だ有害なるかな。若し人ありて、之れ余の敎ふる所に非ずとせば、彼れ虛言を語れる者なり。此故に、あゝアテーナイ人諸君、余は諸君に言はん、諸君はたゞアニュトスの命ずるがまゝに、或は余を免訴し、或は免訴せざれ。されども諸君如何に余を爲さんと雖、又た若し余は幾度の死に遭遇せんとも、余は决して余の主義を變ぜざることは、諸君預め知らんことを要す。