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れ其の根本的誤謬にして世界の一切の苦艱は凡べて此處に基づくものなり。意欲が絕對者に於ける靜かなる狀態より起き出でて其の活動を始むるや、理想(即ち知力)を率ゐたり、盖し知力なければ其の追求の目的なければなり。されど知力が常に意欲に伴ふより茲に意志をして其の根本的誤謬を破りて本來の靜かなる狀態に還るべき道は備へらる。即ち意欲をして其の追求の無益なることを悟らしめ、其の追求の却つて無限の苦痛を惹き起こすのみなることを悟らしめて之れを止めしむるものは知力なり。知力あるが爲めに世界の成り行きは意欲の救濟即ち凡べての物の解脫に最も適當なる行路を取りつゝあり。此の點より見て世界は善美なりと。斯くハルトマンが世界の成り行きを以て最も望むべき目的即ち解脫に至るに適するものとなせるは進化說を取れる所にして、是れヘーゲルより來たれる要素なり。されど世界が此くの如き行路を取りて解脫するを要する、換言すれば凡べての物の救濟さるゝことを要するは是れ世界の存在其の物の惡しくして苦艱を以て充たさるゝがゆゑなり。此の點より云へばハルトマンの說は厭世論にして此の處即ちショペンハウェルより來たれる要素なり。