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と趣とを異にするものにてありながらカントの思想を形づくることに於いて共に其の痕跡を遺せり。彼れが初年の著述を見れば其の如何に自然科學上の硏究に其の意を注げるかを知ることを得べし。彼れは其の最初の著作(一千七百四十七年出版)に於いてデカルト派の物理學者とライブニッツとの間に於ける問題(カントは此の問題を言ひ現はして「運動する物體の力は物體の量と單に其の運動の速力とを相乘じたるものなるか、將た其の量と運動の速力の自乘とを相乘じたるものなるか」といふ點に在りとせり)を論じ又彼れが學位を得たる時の論文(Meditationes de igne 一千七百五十五年)に於いて物體の相牽引するは其が直ちに相觸るゝことによらずして其の間に彈力ある物質の存在するによるとし且つ光及び熱も亦此の物質の振動の傳はることによりて起こることを論じたり。其の他彼れが自然科學上の著作として最も大なる價値を有するは "Allgemeine Naturgeschichte und Theorie des Himmels"(一七五五出版)なり。彼れは此の書に於いて自然科學の機械的說明と神の作爲を言ふ目的觀との相背戾するものに非ざることを論じて謂へらく、自然の勢力は自ら整然たる秩序を爲す樣に働き物質はおのづから法則に從う