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《啓蒙思潮の一代表者神學者ライマールス。》〔五〕啓蒙時代に於いて該思潮の一代表者として主として神學的方面に於いて大なる勢力を振ひたるはライマールス(Reimarus 一六九四―一七六五)なり。彼れは盛んに無神論を攻擊せると共に又敎會の敎へたる天啓的宗敎の信仰に向かひても毫も假借する所なく批評を試みたりしが其が攻擊の武器とせる所は專らヺルフ學派より得來たれるものなりき。彼れ以爲へらく、世に奇蹟といふべきは唯だ萬物の造化されたることの一あるのみ、天啓と謂ふものも亦唯だ自然界に現はれたるものあるのみにして是れ凡べての人の認め得る所、且つ吾人が幸福を得むには此の自然界に現はれたる天啓を知ることの外に要すべきものなし、其の他に特殊なる奇蹟の行はるといふは是れ却つて神の完全なること及び神が將來を透見する全智と相容れざるものなりと。斯く彼れは唯だ一般の道理の上より天啓的宗敎に說く所を攻擊したりしに止まらず之れに加へて聖書に揭げられたる證憑の果たして賴むに足るべきものなるかを批評し人間の證言の誤り易きこと、聖書の中に記載しある事柄に矛盾したるものあること及び神の啓示を傳へたりと稱せらるゝ人物の言行の神の使者たるに相應ふさはしからぬこと等を揭げ論ぜり。