Page:Onishihakushizenshu04.djvu/432

提供:Wikisource
このページは校正済みです

れのみにあらずして啓蒙時代の論者の一般に亘れる傾向なりき。しかも此くの如く輕く又一方向きに唱へられたる說の奧底に於いては又啓蒙時代の高尙なる思想の奔流を認むることを得。彼れはロックに哲學的基礎を有する而して當代の一般の思想とも見らるべきものを語り出でて曰はく、凡そ吾人の各自の生まれ付きに得たる所は皆相均しきものなり、即ち其の感覺する力と其の自愛心とに於いて生來は皆平等なるものなり、唯だ外界に接して種々の經驗を得ることによりて個人の間に種々の差別を生じ來たるのみ、敎育(一切の境遇の影響をも含めて廣き意味に解したるもの)の注意せらるべく、重んぜらるべき所以實にこゝに在り、而して敎育はまた政治の如何に係るものにして權利上及び財產上の差等の減少するに從ひて俊傑と稱すべきもの益〻減少し來たれども人間一般に就きていふ時は幸福を增加し來たると。斯く性に於いては吾人は皆平等なれども唯だ習によりて差別を生ずと見、而して本來の性に於いては吾人は皆卑近なる所に始まりて利益の觀念に動かさるゝものなれども其の自利心を利用して善く敎育を施すことによりて吾人を如何なる高等なる者とも成し上ぐることを得といふ思想是れ即