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ざるべからずと見、また快樂を比較し計算して眞實の快樂を得むことを力めざるべからずと考へたり。

クラーク及びヲラストン等の說に於いて認めらるゝ如く、一つには道理上直覺的に或は論證的に發見し得る道德の法則といふ觀念、又一つには一般の幸福といふ觀念、また一つには各人の利益といふ觀念、及びそれらに結びて神の意志によりて與へらるゝ賞罸といふ觀念が多くの道義學者の所說に現はれ來たりながら其等相互の關係は尙ほ十分に說明せられでありしなり。

《シャフツベリー及びハッチソンの說。》〔四〕シャフツベリー(Anthony Ashley Cooper, Earl of Shaftesbury 一六七一―一七一三 ロックに親善なりしシャフツベリー侯の孫)に於いて英國の倫理學上の硏究は一轉步を爲したりと謂ふべし。彼れの倫理說は希臘風の美術的世界觀によりて養はれたる哲學思想に根據せる所あり。彼れが世界を觀るや部分と全體との調和といふ觀念を基とし吾人の身體の個々の部分が全體に於いて纏められて一團體を成し而して其の全團體を活動せしむる所以のものが吾人の精神なる如く、宇宙は多が一に調和されたる一團體にして其を活動せしむる精神是れ即ち神なり。