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りき。彼れの著書は其の文章の美はしきを以て知らる。上に擧げたる著作の外『アルシフロン』( "Alciphron or the Minute Philosopher" 一千七百三十二年)『サイリス』("Syris" 一千七百四十四年)等あり。

《視覺に關する新說。》〔二〕バークレーはロックが硏究の問題を繼ぎて吾人の觀念の起原を考へ、而して其の知識上の價値を明らかにせむとせり。而して彼れが此の硏究に於いて新路を開き出だせるは其の視覺新論なり。彼れ論じて曰はく、吾人は眼を以て直ちに物體の大さ及び遠近を見るが如く思へど實は然らず、吾人が今、唯だ視覺のみを以て斯く距離及び物體の大さを見るが如く思ふは久しき經驗の結果にして其の起原を考ふれば他の感覺即ち觸感(現今の心理學上の語にて委しく云へば筋肉運動の感覺をも含めたる者)によりて得たる經驗を視覺に結び附けたるに起これるなり。盖し手もて探り足もて步みたる心持が基礎となり、吾人の眼にしかじか見ゆるものは手に觸るゝ時かくの如く感じ、また其の物に觸るゝまでには如何ほど脚の運動をなさざるべからざるかといふことが眼に見たる感覺に結合し來たりて後には目に見たるのみにて直ちに物體の大さと距離とを心に浮かぶるに至る