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人の靈魂に於いて生まれたりと謂ふべく、又神が人間となれりとも謂ふべし。斯くなれる人は之れを基督と名づくるも可なり否神と名づくるも可なり。

《ニコラウス、クザーヌス、中世紀思想の殿、新時代開始の端。》〔一七〕上述せる如くスコラ哲學が其の當初の目的を放棄するに至れる傍には神祕家の流れが大に膨脹して敎會の宗義に對しては著るく獨立の位地を取り又敎會の常に排斥し來たれる新プラトーン學派風の思想をも調和することとなれり。而してかゝる神祕的傾向と自然界硏究の傾向とを合しまた學術界の新精神の鬱勃たらむとすることを示しながら尙ほ舊時代の世界觀を脫せずして恰も中世紀思想の殿となれる者を


ニコラウス、クザーヌス(Nukolaus Cusanus 一四〇一―一四六四)

とす。彼れの哲學に於いては新時代の將に開けむとすることを示すに足るものあれどもその思想は尙は敎會の宗義に忠實にして其の目的とするところ從來中世紀社會の貴重視したる信仰及び希望を一の哲學的組織に造り成さむとするに