Page:Onishihakushizenshu03.djvu/473

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ありき。彼れに在りては哲學と信仰とはおのづから殊別のものたるの觀をなしき、換言すれば兩者の融合は尙ほ未だ敎會の欲したるやうには成就せられざりき。スコラ哲學の立脚地に在りて此の兩者を最も善く結合せしめむとし而して常時の思想界の最大且つ最好代表者となれるは


トマス、アクイナス(Thomas Aquinas

なり。吾人は彼れが建てたる神學の大組織に於いて中世紀の大理想の反映を見ることを得。

《トマス、アクイナス、天啓と理性との關係。》〔五〕トマスは一千二百二十七年伊太利に生まれ一千百七十四年に歿せり。彼れに從へば神學の敎へむとする所と哲學の究めむとする所とは全く其の題目を一にす卽ち共に侔しく神なり、神に關することは天啓を以て示さるゝと共にまた吾人の理性を以て推知することを得、理性を以て推知することを爲し得ざる者には天啓を以て敎へらる。但し宗敎上の事柄は皆侔しなみに能く道理を以て推究し得らるべき限りにあらず。其の中の或事件(例へば化現の事、三位一體の事等)