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用ゐられたるによりてスコラ哲學は其の面目を一新し遂に其の全盛時代に入ることとなれり。即ち此の期に在りては敎會の敎理組織に於いて已にアンセルムス等が遺したる功績をも收め之れに加ふるにアリストテレースが哲學の方式を以てして能く一層偉大なる組織を成就したりし也。

《アリストテレース哲學採用の得策。》〔三〕そもアリストテレースの名を以て說かれて入り來たりたる新學說は到底防止し得らるべくもあらず、故に寧ろ之れを容れて其れが決して敎會の敎義に戾るものに非ざるを示すこと換言すれば敎會の敎義をアリストテレースの哲學もて辯護することは當時の敎會に取りて最も策の得たるものなりき、而して是れまた他方に於いては新プラトーン學派の自然論の傾向を帶びたる說を唱へて敎會の敎理に違背する方向に出でむとする者の口を噤ましむる最良手段なりき。アリストテレースの遵奉せらるゝや遂には道理と信仰との和合といふも其の謂ふところ道理は各個人の理解力を用ゐて推理したる所よりも寧ろ彼れの哲學に說かれたるものといふ程の意味に變じ來たり彼れの說に合ふといふこと是れ道理に合ふといふと同一義なるが如くに思惟せられたり。