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靈魂とは凡べて形體を動かし形體を形づくる原動力となる者を指す。故に彼れは靈魂を名づけて身體のエンテレカイア(ἐντελέχεια)即ち形體(素)を動かし形づくるところの相なりと云へり。最下等なる生物は植物にして其の靈魂即ち生氣は唯だ營養と繁殖との作用を有す。次ぎに動物の靈魂は感覺と共に欲情の作用を有しまた其の或者は自ら其の體を移し動かすことを爲す。而して人類に至りては以上の諸能の外に尙ほ理性(事理を考ふる用をなすもの)を具ふ。下等の段階に於ける生氣は上等のものなくして存在すれども上なるは下なるものと相離れては存在せず其の存するや下なるものを其の地盤となす。盖しアリストテレースの謂ふ靈魂は形體ならねども形體と離れずそを形づくるものとして存するものにして、其の活動を現はすべき形體を離れて自立獨存するものに非ず、而して生物の體內に於いて件の靈魂と特に相結ばれる物質あり、之れをプノイマ(πνεῦμα)と名づく、而して此のプノイマは動物に於いては特に血液中に存す。故にアリストテレースは靈魂の主なる機關は心臟なりといへり。

アリストテレースの解剖學上の觀察は不等質のもの(ὰνομοιο μερῆ)即ち其の部分の相