Page:Onishihakushizenshu03.djvu/311

提供:Wikisource
このページは校正済みです

に從へば塲處(τόπος)とは圍繞する物體と圍繞せらるゝ物體との界限をいふ又時間は前後することに於ける運動の數なりと。此の故にアリストテレースは虛空なる塲處なしとし又世界以外に塲處あることをも否めり。故に又世界以外には時間もなし。凡べて運動は物體が互に其の處を交換するによりて起こる。アリストテレースはデーモクリトス等と說を異にして世界は唯一なりと說けり。

《天地の兩界、球層說。》〔二四〕アリストテレースが天地の成り立ちを說くや常住なる又靈智なるを以て高きもの全きものとせり。圓かなる運動は最も能く常住の相を示す。而して天は圓かなる運動の在る所、地は直線の運動のある所、彼れはアイテールを以て成り、此れは四元素を以て成る、天界は完全常住の境にして地は不完全無常の境なりと。かく彼れが天地の兩界を二分せる說に於いてピタゴラス學派幷びにプラトーン等に於ける兩界論の面影を認むるを得べし。彼れまた以爲へらく星は智ある高等なる靈の司どる所のものにして其の靈智の影響は地上に及ぶ。地は球形を成して靜かに世界の中央に在り幾多の球層は其の周圍を廻轉す、此等の球層にはそれぞれに月、日其の他五個の遊星附著すまた世界の外圍には恒星の附著せ