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Page:Onishihakushizenshu03.djvu/184

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す盛んなるにつれ諸種の學說紛然として競ひ起こりぬ、而して智識上の進步漸々社會一般に波及するに從ひ古來の信仰、習慣、風儀、傳說等はた漸く其の勢力を失はむとせり。而して第五世紀の後半に於いて件の大變動の廣く社會に波及せる情勢を示し又これを波及せしむるに與りて力ありしものをソフィストの一流となす。ソフィスト等に於いて希臘の思想界は一大步を轉じたるなり。彼等は諸種の學問及び從來の學理的硏究の結果を通俗にすることに力めたりしが故に其の社會に及ぼしゝ影響は廣く且つ大なるものありき。史家の謂ふ希臘の社會に於ける「啓蒙時代アウフクレールングスペリオーデ」とは即ち此の時期を指す。さてソフィスト等は廣く學術硏究の結果を取りて之れを時人に授けむとしたりきとは云ふものから其の最も心を用ゐたりしは社會上の事柄にあり、即ち從來の物界硏究期は彼等に於いて一轉して專ら人事硏究の時代となれりし也。ソークラテースも亦此の時代の一人なり。後にも述ぶるが如く希臘の哲學はソークラテースによりて新原動力を得次いで新たなる大組織時代を開き來たりしが而も彼れみづからはソフィスト等と共に人事硏究の時代に屬したり。