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トスは此の心の靜平なる狀態を海のなぎたるに譬へたり。尙ほ語を換へていへば眞正の幸福は眞智によりて得らる、適度を守り過不及を避くるによりて得らる。道德は外形の行よりもむしろ內心の狀態にあり。故に不義をなすものは他に不義をせらるゝよりも不幸なり。

デーモクリトスは鬼神の存在を說いて曰はく、空中に住める幾多の者ありて其の形人に類す、ただ人間よりも大きく强く且つ壽なるのみ。彼等の身體より影像絕えず發出し人之れに觸るれば髣髴たる其の形を見其の聲を聞く。人は之れを崇めて神となしあらゆる天變地異を其の所爲に歸し、その實にあるよりも想像を以て一層之れを貴きものとなして畏れ且つ事ふ。其の身より發出するものは或は吾人を利し或は害す。又其の發出物の媒によりて未來を豫知するあり。


提要

《アトム論の難點。》〔十一〕上に云へる如く均しく多元說を取れるものの中にも其の原理とする所の最も簡にして而も要を得、組織整然首尾貫徹せるものはアトム論者を推さざ