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Page:Onchiseiyō.pdf/9

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服せず色々評判して、迷惑なるやうに思ふ事もあるべし、大食、大酒、淫亂、我儘に暮せしものは、身を失なひ、家を損ふ第一なれども、是よりよき事はなきと覺へ、身の養生より初め心行の嗜み、人間長久の至極なるを、扨々迷惑窮屈なる事に心得たがふと同じ事也、何程能事にても評判仕樣に依て、色々に申さるゝもの也、されば上中下ともに、和熟一致になくしては、善行も成り遂がたしと思はるゝ事也。

 昔も今も人の生れて受得たる氣血、指て替る事にもなきと見ゆる、古も七十に及びたる者は老人と云、四十五十のものは老人といはず、今とても同じ事也、然るに近來十六、十七位にもいたる若輩を見るに、おゝくは顏の色も惡敷、氣根も薄く見へ、寒暑も一番にあたり、少々食を喰過れば、腹中痞へ、かりそめにも藥たけく口上にも唯よはりたる事のみ云て暮す樣になりたり、幼年の時より育樣わるく、持なし惡敷、早く樂を仕たる故に、平生所作もつやもかざりの樣に成て、內心常に苦敷、人の見ぬ所にて、却て亂行不養生甚敷、强く盛に成べき時節を取失ふ也、農業を勤、其外輕き世渡りの者は、朝より暮る迄骨を折事甚しければ、心の中やすきによりて勝れたる長命の者も出來、どれも其身健なり、此道理人々能くかへり見て勘て、生付器用不器用愚鈍發明は是非に不及と思ひ、面々に我が勤むべき事さへ大切に怠らざれば、心苦む事なく何方にても安樂成る故と思ふべし、寒きめに逢ねば暖成事を知らず、空腹なる時は平日の食物もうまく、身につくやうに覺ゆる心の持樣に手近き