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も仕安く、法度の數減じ、背く者も稀にして心も優に、諸藝もはげみ嗜やうに成べきか、和漢共に事多く法度繁き事は宜しからぬ事と有之候。

 勘略儉約の義は家を治る事の根本なれば、相勤べき也、第一國の用脚不足しては、萬事指さはるのみにて困窮となる、乍去正理にたがひ、めつたに勘略する斗にては、慈悲の心薄くなりて、覺えず知らず、むごく不仁成仕方出來て、諸人共くるしみ痛み勘略却て無益の費と成事あり、山海に自然と生じ、田畑に蒔植、其外諸職人の手にて拵たる類に、限りなき萬物其程々の價有、餘りきびしくして棹を入吟味すれば、其品々薄く麁相に成て、一度拵へ二年三年も用ひらるべきもの、一年の內に幾度も仕替ねばならぬやうになり、積りては大きなる費に成事每々有事なり、さればとて吟味すべき程は隨分考へ申付べし、唯過不足なき樣に心を用ひ、人の益にもならぬ奢をはぶき、一つ二つにて濟候物を數多く拵へ、いまだ用ひらるゝ物をむざと改申付る類、常住平生の申事に勘辨工夫有たき事なり、凡て心得違にて諸人のいたみなげきになる事顯然たり、夫故に聖人の詞にも用を節にして、人を愛すると有て、何事もふまへ所なくては叶ぬ事と見へたり。

 宜しからぬ事にても數年久敷經ぬれば、定たる法の樣になりて、目にも耳にも染付氣の付ぬもの也、惡敷臭氣はしばらくもこらへられぬ物なれども、年月なれてはわきにて思ふ程は苦にならぬと見ゆる、一切の事も其通りにて、惡き事をも改め宜筋に直しても、古來の作法に立戾る類の事も、心に