コンテンツにスキップ

Page:Onchiseiyō.pdf/7

提供:Wikisource
このページは検証済みです

して、其者役にたゝぬ樣に取違て、一生捨り者の部と成事每々有事にて、甚殘念成事也、然ば其類は又々外の役にうつし見るべき事也、何役に用ても宜しからざる時は、其者の不才たるを明に知るべき事故、其內律義一遍のものは、其程々の德あり、只佞姦にして生地惡敷上を色々の物にて塗隱したる者は、人を損じ國の害に成事甚し。

 惣て人には好き嫌のある事也、衣服食物を始め物數寄それに替る也、然るを我好事をば人にも好ませ、我嫌成事をば人にもきらはせる樣に仕なすは、甚せはしき事にて、人の上たる者別て有間敷事也、其中に嬉敷事いやなる事は、本心より出たる事故、萬人よりても替らざるもの也、さある上は、我心に嬉しき事は人も嬉しかるべし、我心にもかなしくいやなる事は、人も同じく其通り成るべしとおもふことの見たがふ事有まじ、古人の恕の道にと申されしも、此心得たるべきか。

 萬の法度號令年々多くなるに隨ひ、自然と背くものもまた多く出來て、法令彌繁く煩しき事になり、斯の樣子にて數十年を經るならば、後には高聲にて咄しする事も遠慮あるやう成間敷ものにてなし、其外一切の作法諸役所の取扱ひ迄も右の通なれば、あげくには夜ねる間もなきやうに成行んか、第一法令多過れば心いさみなくせばくいじけ、道步行も跡先見る樣になり、常住述懷のみにて暮し、自然と忠義の心も薄くなるまじきものにてもなし、さあれば其品々を篤と考へ、人の難儀に及び差支にも成べき事、瑣細なるは除きやめる樣に仕度ものなり、萬事の取扱すくなければ、勤る事も守る事