このページは検証済みです
憂愁に
憂愁よ
いつから私の伴󠄁侶になつた
今は私に影のごとつきそひ
私の着古した背廣のやうに親しい
私は君と遊󠄁ぶ術󠄁も覺えた
子供が路ばたで石はじきするやうに
憂愁よ 親しいものよ
われわれは親しくなり過󠄁ぎた
たとひ私が妻をめとるとも
私はもはや君を捨てまい
〈無題〉『道󠄁の地藏に』
道󠄁の地藏に
鳴くこほろぎ
稻田のはてに
山が明󠄁るい
ときどき
輕い自轉車に
追󠄁ひこされ、
風に追󠄁ひこされ
かそかなものに追󠄁ひこされ
秋陽の道󠄁を
ゆく心
とほとほと
ゆく心