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呼びかけなかつた
さうだそのとき、行手に一つの
灯を見つけた
竹むらの向うにちらほらしてゐた
旅 人はやれうれしや
あそこにゆけば人がゐる
何かやさしいものが待つてゐさうだ
これでたすからうと
その灯めあてに急󠄁いでいつた
胸がおどつてゐた
寂しさも忘れてしまつた
だが、旅 人が
何に迎󠄁へられたとみんなは想ふ
なるほどそこにはやさしい人々がゐた
灯のもとで旅 人はたのしいひとときを過󠄁した
だが外のもを吹く風の音󠄁を
きいたとき旅 人は思つた
私のゐるのはここぢやない、
私の心はもうここにゐない
寂しい野山を步いてゐる
旅 人はそゝくさと草鞋をはいて
自分の心を追󠄁つかけるやうに
その家をあとにした
旅 人はまた旅 をしていつた
また別の灯の見えるまで
何といふ寂しいことだろう
彼はとゞまることもなく旅 をしていつた
この旅 人は誰だと思ふ
彼は今でもそこら中にゐる
そこら中に一ぱいゐる
君達󠄁も大きくなると
一人一人が旅 をしなきやならない
旅 人にならなきやならない