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墓碑銘


この石の上を過󠄁ぎる

小鳥達󠄁よ、

しばしここに翼󠄂をやすめよ

この石の下に眠つてゐるのは

お前󠄁達󠄁の仲間の一人だ

何かの間違󠄁ひで

人間に生れてしまつたけれど

 (彼は一生それをひてゐた)

魂はお前󠄁達󠄁と

ちつとも異らなかつた

何故なら彼は人間のゐるところより

お前󠄁達󠄁のゐる樹の下を愛した

人間の喋舌る憎しみと詐りの

言葉より

お前󠄁達󠄁の

よろこびと悲しみの純粹な言葉を愛した


人間達󠄁の

理解しあはないみにくい生活より

お前󠄁達󠄁の

信賴しあつた

つつましい生活ぶりを愛した

けれど何かの間違󠄁ひで

彼は人間の世界に

生れてしまつた

彼には人間達󠄁のやうに

お互を傷けママあつて生きる勇氣は

とてもなかつた

彼には人間達󠄁のやうに

現實と鬪つてゆく勇氣は

とてもなかつた

ところが現實の方では

勝󠄁手に彼に挑んで來た

そのため臆󠄂病な彼は

いつも逃󠄁げてばかりゐた


やぶれやすい心に

靑い小さなロマンの灯をともして

あちらの感傷の

またこちらの幻想の谷へと

彼は逃󠄁げてばかりゐた

けれど現實の冷たい風は

ゆく先ゆく先へ追󠄁つかけていつて

彼の靑い灯を消󠄁さうとした

そこでたうたう危くなつたので

自分でそれをふつと吹きけし

彼は或る日死んでしまつた


小鳥達󠄁よ

眞實彼はお前󠄁達󠄁が好きであつた

たとひ空󠄁氣銃に打たれるにしても

どうしてこの手が

翼󠄂でなかつたらうと

彼は眞實にさう思つてゐた

だからお前󠄁達󠄁は、小鳥よ、

時々ここへ遊󠄁びに來ておくれ

そこで歌つてきかせておくれ

そこで踊つて見せておくれ


彼はこの墓碑銘を

お前󠄁達󠄁の言葉で書けないことを

やゝこしい人間の言葉でしか書けないことを

返󠄁す返󠄁す殘念に思ふ