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Page:NiimiNankichi-NurseryRhymes and Poems-1-DaiNipponTosho-1981.djvu/101

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早春の道󠄁


少年の私は絣織󠄂の

カクシの裡から

まだしめつてゐる早春の往還󠄁へ

がつくんがつくんよくがたつく

自轉車の三角乘りで

口笛を吹きながら

あらはれて來る

小川のへりに牛はつながれ

水車は氷がとけて

今朝󠄁から明󠄁るく笑ひはじめ

耳朶ミミタブのやうに小さい袂の

少女もそこにたつてゐるのに

少年の私は小鳥のやうに

早春の風をきつて走る

だが崖下に見たスミレの花󠄁の

あまりの可憐さには

自轉車をとめてそつと摘󠄂みとり

眞鍮の徽章󠄂にさせば

この羅紗帽は

はや、春のシヤツポで

ぴかぴか光るひさしが

 マブしいのだつた