いふ物も、其旨をきはむれば、たゞ人の國をうばゝむがためと、人に奪はるまじきかまへとの、二にはすぎずなもある、そも〳〵人の國を奪ひ取むとはかるには、よろづに心をくだき、身をくるしめつゝ、善ことのかぎりをして、諸人をなづけたる故に、聖人はまことに善人めきて聞え、又そのつくりおきつる道のさまも、うるはしくよろづにたらひて、めでたくは見ゆめれども、まづ已からその道に背きて、君をほろぼし、國をうばへるものにしあれば、みないつはりにて、まことはよき人にあらず、いともいとも惡き人なりけり、もとよりしか穢惡き心もて作りて、人をあざむく道なるけにや、後人も、うはべこそたふとみしたがひがほにもてなすめれど、まことには一人も守りつとむる人なければ、國のたすけとなることもなく、其名のみひろごりて、つひに世に行はるゝことなくて、聖人の道は、たゞいたづらに人をそしる世々の儒者どもの、さへづりぐさとぞなれりける、然るに儒者の、たゞ六經などいふ書をのみとらへて、彼國をしも、道正しき國ぞと、いひのゝしるは、いたくたがへることなり、かく道といふことを作りて正すは、もと道の正しからぬが故のわざなるを、かへりてたけきことに思ひ