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がたきを、天理のまゝなる道と思ふは、いたくたがへり。又其道にそむける心を、人慾といひてにくむも、こゝろえず。そもその人慾といふ物は、いづくよりいかなる故にていできつるぞ。それも然るべき理にてこそは、出來イデキたるべければ、人慾も卽天理ならずや。又百世モヽツギても、同ウヂどちマグハヒすることゆるさずといふサダメなど、かの國にしても、上代より然るにはあらず。周の代のさだめなり。かくきびしく定めたる故は、國のナラハシあしくして、オヤ同母兄弟ハラカラなどのアヒダにも、みだりなる事のみツネ多くて、ワキなく治まりがたかりし故なれば、かゝるサダメのきびしきは、かへりて國のハヂなるをや。すべてナニの上にも、サダメキビシきは、オカすもゝの多きがゆゑぞかし。さて其サダメサダメと立しかども、まことの道にあらず。人のコヽロにかなはぬことなる故に、したがふ人いとまれなり。後〻ノチはさらにもいはず、はやく周の代のほどにすら、諸侯といふきはの者も、これを破れるが多ければ、ましてつぎつぎはしられたり。姉妹などにさへタハけしアトもある物をや。然るを儒者ズサどもの、昔よりかく世人の守りあへぬことをば忘れて、いたづらなるさだめのみをとらへて、たけきことにいひ思ひ、又皇國をしひてイヤしめむとして、ともすれば、古兄弟まぐはひせしことをいひ出て、鳥獸トリケモノのふるまひぞとそしるを、此方コヽ物知人モノシリヒトたちも、是をばこゝろよからず、御國のあかぬことに思ひて、かにかくにいひまぎらはしつゝ、いまださだかにコトワトケることもなきは、かの聖人のさかしらを、かならず當然サルベキコトワリと思ひなづみて、なほ彼にへつらふ心あるがゆゑなり。もしへつらふこゝろしなくば、彼と同じからぬは、なにごとかあらむ。抑皇國の古は、たヾ同母兄弟ハラカラをのみキラひて、異母コトハラ兄弟イモセなど御合坐ミアヒマシしことは、天皇を始め奉て、おほかたよのつねにして、今京イマノミヤコになりてのこなたまでも、すべてイムことなかりき。但しタフトイヤシきへだては、うるはしく有て、おのづからみだりならざりけり。これぞこの神祖カムロギの定め賜へる、正しきマコトの道なりける。然るを後世には、かのから國のさだめを、いさゝかばかり守るげにて、異母コトハラなるをも兄弟イモセと云て、マグハヒせぬことになも定まりぬる。されば今世にして、オカさむこそアシからめ、古は古の定まりにしあれば、異國アダシクニサダメノリとして、アゲツラふべきことにあらず。

いにしへの大御代には、しもがしもまで、たゞ天皇の大御心を心として、

天皇の所思看オモホシメス御心のまに奉仕ツカヘマツリて、オノが私心はつゆなかりき。

ひたぶるに大命オホミコトをかしこみゐやびまつろひて、おほみうつくしみの御蔭ミカゲにかくろひて、おのもおのも祖神オヤガミ齋祭イツキマツリつゝ、

天皇の、オホ皇祖オヤガミ御前ミマヘ拜祭イツキマツリがごとく、臣連オミムラジ八十ヤソ伴緖トモノヲ、天下の百姓オホミタカラに至るまで、オノ祖神を祭るは常にて、又天皇の、朝廷ミカドのため天下のために、天神アマツカミ國神クニツカミモロをも祭