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Page:NDL992519 千島アイヌ part2.pdf/4

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く現今彼等の中に見ることの出來ぬものがある、云はゞケヤピテンクツク氏の南洋航海書などで、歐化せられて居らぬ時の南洋土人の土俗を知る樣なものでしやう、

千島土人の還元的土俗は最も人類學上大切なるものである、彼等土人は今日僅かに六十餘人で、これが死でしまつたらば、最早彼等を見やうとしても見られぬのである、殊に彼等固有の土俗は今日までに十中の八九までは殆んど(土俗學的絕滅ヱスノグラフヒカルエツキスチンクト)して居るのである、されば今にして彼等の中に付て固有の土俗を還元して置かなければ、他日吾人がいかにするとも、殘念ながら其土俗は遂に知られずして、終るに至りませう、豈に人類學上最も注意せねばならぬ問題でありませんか、果して然りとせば、余のこれから書て行かんとする土俗は學者の最も參考となるものであると、余はかたく信じて居ります、北海道のアイヌは、其土俗中日本的の所が中々多い、こは古來よりの關係上、遂にかくなつたのでしやう、千島のアイヌはこの關係はないらしい、されど北海道のアイヌの土俗を硏究する上に於ても、千島土人の土俗は大に參考となるのである、余は出來得べきだけ蝦夷アイヌの土俗との比較を試みやうと思つて居ります、又なるべく唐太アイヌの土俗も比較いたしましやう、尙ほ必要上比較する塲合があれば、其附近のカムチヤダール、アリユート、ヱキスモー、廣き意味のツングーズ、ギリヤーク、チユクチなどの土俗をも參考といたす考であります、

千島アイヌの婦女
人類學教室所藏寫真(著者撮影)
一人の女子は露化せられる風俗をなせるもの、又一人の手に斧をもてる女子は千島固有の風俗をなせるもの、而して足にははけるはカンヂキなり

讀者はすでに彼等の言語に付て、前章を御讀みになつたでありましやう、讀者は其言語に付ていかに考へて居られますか、余はこれに付ては聊か考へがある、其は外でない、彼等は古來北千島に棲つて居つたから其言語中、附近のアリユート語とか、カムチヤダール語などの混雜はあるのであらうと思 はるゝのである、こは何人も起る所の考であります、しかるに余は自から彼等の言語を蒐集し、文法を調査して見るに、其言語、文法は疑ふ可からざるアイヌ語にして、余は未だ其言語中カムチヤダール語や、アリユート語を發見することが出來なかつた、果して然らば彼等の言語は明かにアイヌ語であります、しかし蝦夷アイヌと少しく異なて居る所もある、こは久しく分離した結果、(判読困難)遂にかくの如き現象を呈して來たのでしやう、かく考へて見れば、千島アイヌのアイ