霞も霧もへだてぬ空の景色の、何となくそゞろにをかしきに、少し曇りたる夕つかた、衣など、忍びたる杜鵑の、遠うそら耳かと覺ゆるまで、たど〳〵しきを[1]聞きつけたらん、何ごこちかはせん。祭近くなりて、靑朽葉、二藍などのものどもあおしまきつゝ、細櫃の蓋に入れ、紙などにけしきばかり包みて、行きちがひもて步くこそをかしけれ。末濃、村濃、卷染など、常よりもをかしう見ゆ。童女の頭ばかり洗ひつくろひて、形は皆痿えほころび、打ち亂れかゝりたるもあるが、屐子[2]、沓などの緖すげさせ、裏をさせなどもて騷ぎ、いつしかその日にならんと、急ぎ走り步くもをかし。怪しう踊りて步く者どもの、さうぞきたてつれば、いみじく、ちやうざ[3]といふ法師などのやうに、ねりさまよふこそをかしけれ。ほど〳〵につけて、親をばの女、姉などの供して、つくろひ步くもをかし。
- こと〴〵[4]なるもの
法師の詞。男女の詞。下司の詞にはかならず文字あまりしたり。
- ↑ はつきりとせぬ聲を
- ↑ クツツケノアシグ(和名抄)
- ↑ 長者、東寺の住持なり
- ↑ 異事、特にきはだち異なりたる物