除目[1]のほどなど、內裏わたりはいとをかし。雪降りこほりなどしたるに、申文[2]もてありく。四位五位、わかやかに心地よげなるは、いとたのもしげなり。老いて頭白きなどが、人にとかく案內いひ、女房の局によりて、おのが身のかしこきよしなど、心をやりて說き聞するを、若き人々は眞似をし笑へど、いかでか知らん。「よきに奏し給へ、啓し給へ[3]」などいひても、得たるはよし、得ずなりぬるこそ、いとあはれなれ。
三月三日、うら〳〵とのどかに照りたる。桃の花の今咲きはじむる。柳など、いとをかしきこそ更なれ。それもまだ、まゆにこもりたる[4]こそをかしけれ。廣ごりたるはにくし。花も散りたる後はうたてぞ見ゆる。おもしろく咲きたる櫻を長く折りて、大なる花瓶にさしたるこそをかしけれ。櫻の直衣に、出袿して、客人にもあれ、御兄の公達にもあれ、そこ近くゐて物などうちいひたる、いとをかし。そのわたりに、鳥蟲のひたひつきいと美しうて飛びありく、いとをかし。
祭[5]のころはいみじうをかし。木々のこの葉、まだ繁うはなうて、わかやかに靑みたるに、
- ↑ 春行はるゝは縣召(アガタメシ)の除目とて地方官任免の式
- ↑ 任官志願書
- ↑ 皇后へ申すを啓といふ
- ↑ 柳の僅に芽ぐみたるを蠶の繭に譬へいふ
- ↑ 加茂の祭、四月、中の酉の日に行はる