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Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/365

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藝とのほまれなり。二には色欲、三には味なり。よろづのねがひこの三つにはしかず。これ顚倒の相よりおこりて、若干のわづらひあり。求めざらむにはしかじ。

八つになりし年、父に問うていはく、「佛はいかなるものにか候ふらむ」といふ。父がいはく、「佛には人のなりたるなり」と。また問ふ、「人は何として佛にはなり候ふやらむ」と。父また、「佛のをしへによりてなるなり」とこたふ。また問ふ、「敎へ候ひける佛をば何がをしへ候ひける」と。また答ふ、「それもまたさきの佛のをしへによりてなり給ふなり」と。またとふ、「その敎へはじめ候ひける第一の佛は、いかなる佛にか候ひける」といふ時、父、「空よりやふりけむ、土よりやわきけむ」といひてわらふ。「問ひつめられてえこたへずなり侍りつ」と諸人にかたりて興じき。