Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/317

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養ひ人をたすけ、忠孝のつとめも醫にあらずばあるべからず。次に弓射、馬に乘ること六藝にいだせり。必これをうかゞふべし。文武醫の道、まことに缺けてはあるべからず。これを學ばむをば、いたづらなる人といふべからず。次に食は人の天なり。よく味をとゝのへ知れる人大なる德とすべし。次に細工よろづの要おほし。この外の事ども、多能は君子のはづるところなり。詩歌にたくみに絲竹にたへなるは、幽玄の道、君臣これを重くすとはいへども、今の世にはこれをもちて世を治むること、漸おろかなるに似たり。こがねはすぐれたれども、くろがねの益多きにしかざるがごとし。

むやくの事をなして時をうつすを、おろかなる人とも、ひがことする人ともいふべし。國のため君のため、止むことを得ずしてなすべきことおほし。そのあまりの暇いくばくならず思ふべし。人の身に止むことを得ずしていとなむ所、第一に食物、第二に着る物、第三に居る所なり。人間の大事この三つにすぎず。飢えず寒からず、風雨にをかされずして、しづかに過すを樂とす。たゞし人みな病あり、病にをかされぬればその愁忍びがたし。醫療をわするべからず。藥を加へて、四つの事もとめ得ざるを貧しとす。この四つかけざるを富めりとす。この四つの外をもとめ營むをおごりとす。四つの事儉約ならば誰の人か足らずとせむ。

是法法師は、淨土宗にはぢずといへども、學匠をたてず、たゞ明暮念佛してやすらかに世を過すありさま、いとあらまほし。

人におくれて四十九日の佛事に、あるひじりを請じ侍りしに、說法いみじくして、みな人淚