Page:Kokubun taikan 09 part2.djvu/179

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  ゆづりてし そのまことさへ ありながら おもへばいやし

  しなのなる そのはゝき木の そのはらに たねをまきたる

  とがとてや 世にもつかへよ 生ける世の 身をたすけよと

  ちぎりおく 須磨とあかしの つゞきなる ほそかはやまの

  やまがはの わづかにいのち かけひとて つたひしみづの

  みなかみも せきとめられて いまはたゞ くがにあがれる

  いをのごと かぢを絕えたる ふねのごと 寄るかたもなく

  わびはつる 子をおもふとて よるのつる なくなくみやこ

  出でしかど 身はかずならず かまくらの 世のまつりごと

  しげゝれば きこえあげてし ことのはも えだにこもりて

  うめのはな 四とせのはるに なりにけり ゆくへも知らぬ

  なかぞらの かぜにまかする ふるさとは のきばもあれて

  さゝがにの いかさまにかは なりぬらむ 世々のあとある

  たまづさも さてくちはてば あしはらの みちもすたれて

  いかならむ これをおもへば わたくしの なげきのみかは

  世のためも つらきためしと なりぬべし ゆくさきかけて

  さまざまに 書きのこされし ふでのあと かへすがへすも