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ましゝか。御兄の少將もいとよくおはしき。このおとゞのかくあまりにうるはしくおはしゝをもどきて少しよう悍にあしき人にてぞおはせし。その義孝少將、桃園の源中納言保光卿の女の腹に生ませ給へりし君ぞかし、今の侍從大納言行成卿世の手かきとのゝしり給ふは。この殿の御をのこゞ唯今の但馬守實經の君、尾張權守良經の君二人は泰淸三位の女の腹なり。むかひばらは少將行經の君、又女君は入道殿の御子高松ばらの權中納言殿の北の方にておはせし。姬君十五にてうせ給ひにきかし。又今のたばの守經賴の君の北の方にておはす。又大姬君おはしますとか。この侍從大納言殿こそひごのすけとてまだ地下にておはせし時藏人頭になり給ふなれ。いと珍らしき事よな。その頃は源民部卿殿は〈この民部卿心うるはしくして、おほやけにつかまりしにより、ゑんまわうくうに生れたると夢に見えたる人なり。〉職事にておはしますに、上達部になり給ひければ、一條院、「この次には又誰かなるべき」と問はせ給ひければ「行成なむまかりなるべき人に候ふ」と奏せさせ給ひけるを、「地下のものはいかゞあるべからむ」と、のたまはせければ、「いとやんごとなきものに候ふ。地下など思し憚らせ給ふまじ。行く末にもおほやけに何事にもつかまつらむに堪へたるものになむ。かくやうなる人を御覽じわかぬは世のためあしき事に侍り。善惡を辨へおはしませばこそ人も心づかひは仕うまつれ。このきはになさせ給はざらむはいと口惜しきことにこそさぶらはめ」と申させ給ひければ、道理の事といひながらなり給ひにしぞかし。大方むかしは前の頭の擧によりて後の頭はなることにて侍りしなり。されば殿上にわれなるべしなどさだのぶの民部卿中將にておはせしをり思ひ給へりける。この人はこよひと聞