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げに賀茂明神などのうけ奉り給へればこそは五代までうち續きさかえさせ給ふらめな。この事いとをかしうせさせ給へりと世ひと申しき。前の帥殿のみぞ「追從深き老ぎつねかな。あな愛敬な」と申し給ひける。誠このきさいの宮の御おとゝの中の君は重明の式部卿の宮の北の方にてぞおはせしかし。そのみこは村上の御はらからにおはします。この宮の上さるべき事のをりは、物見せ奉りにとて后迎へ奉り給へば、忍びつゝ參り給ふに、御門ほの御覽じて、いと美くしうおはしましけるをいと色ある御心くせにて、宮にかくなむ思ふとあながちに責め申させ給へば、一二度しらず顏にてゆるし申させ給ひけり。さて後御心はかよはせ給ふげなる御氣色なれど、さのみはいかゞはとや思しめしけむ。后さらぬことだにこの方ざまにはなだらかにえつくりあへさせ給はざめる中に、ましてこれはよその事よりは心づきなうも思しめしぬべけれど御あたりを廣う顧み給ふ御心のふかさに、人の御ため聞きにくゝうたてあればなだらかに色にもいでずすぐさせ給ひけるこそいとかたじけなう悲しきことなれな。さて后の宮もうせおはしまし、式部卿の宮もうせ給ひて、御門わりなく戀しと思しければ、召しとりていみじく時めかさせ給ひて、貞觀殿の內侍のかみとこそ申しゝかし。世になくおぼえおはして、こと女御御息所猜み給ひしかどかひなかりけり。これにつけても九條殿の御さいはひとぞ人申しける。又三の君は西宮殿の北の方にて坐せしを、御子うみてうせ給ひしかばよそ人は君だちの御爲あしかりなむとて又御おとゝの五に當らせ給ふあい宮と申すにうつらせ給ひにき。四の君は疾くうせ給ひにき。六の君は冷泉院の東宮におはしまし