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給ひけむこそなほあさましく侍れ。さりとて又現世の御榮華をとゝのへさせ給はぬかは。御禊よりはじめ、三箇日の作法、出車などのめでたさは、大方御さまのいというにらうらうじくおはしましたるぞ。今の關白殿、兵衞佐にて御禊の御前せさせ給ひしに、いとをさなくおはしませば、例は本院にかへらせ給ひて、人々に祿などたまはするを、これは河原より出でさせ給ひしかば、思ひかけぬ御事にてさる御心まうけもなかりければ、御前にめしありて御對面などせさせ給ひて、奉り給へりける御こうちぎをぞかづけ奉らせ給ひける。入道殿聞かせ給ひて。「いとをかしくもし給へるかな。祿なからむもびんなく、とりにやり給はむも程經ぬべければ、とりわきたるさまを見せ給ふなめり。えせものはえ思ひよらじかし」とぞ申させ給ひける。この當帝や東宮などのまだ宮達にておはしましゝ時、まつり見せ奉らせ給ひし御さじきの前過ぎさせ給ふほど、殿の御膝に二所ながらすゑまゐらせ給ひて、「この宮たち見奉らせ給へ」と申させ給へば、御輿のかたびらより赤色の御扇のつまをさし出で給へりけり。殿をはじめ奉りて、「猶心ばせめでたくおはする院なりや。かゝるしるしを見せ給はずば、いかでかは見奉らせ給ふらむともしらまし」とこそは感じ奉らせ給ひけれ。さて齋院より大宮に聞えさせたまへる、

  「光いづるあふひのかげを見てしよりとしつみけるも嬉しかりけり」。

御かへし、

  「もろかづら二葉ながらに君にかくあふひやかみのしるしなるらむ」、