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すなるべし。自ら護摩などもたかせ給ふにいとたのもしき事夢にも現にも多くなむありける。徒然に思さるゝ折々は、らうめく所に立ち出でさせ給ひて遙に浦の方を御覽じやるに、蜑の釣舟ほのかに見えて秋の木の葉の浮べる心ちするも哀にいづくをさしてかと思さる。
「心ざすかたをとはゞや浪のうへにうきてたゞよふあまの釣舟。
浦ごく船のかぢをたえ」とうち誦して御淚のこぼるゝを何となくまぎらはし給へる、いふよしなく心ふかげなり。ねびたまひにたれどなまめかしうをかしき御さまなれば、所につけではましてやんごとなきあたらしさを自らいとかたじけなしとおぼさる。京には十月になりて御禊大甞會などの急ぎに天の下物さわがしう、くらづかさ、たくみづかさ、うち殿、そめ殿、何くれの道々につけてかしがましう響きあひたるも片つ方は淚のもよほしなり。悠紀主基の御屛風の歌人々にめさる。書くべきものゝなければ、かしこへ參れる行房中將をや召しかへされましなど定めかね給ふを、まだきに傳へ聞しめしければ宵の間のしづかなるに御まへにことに人もなく、この朝臣ばかり侍ひて昔今の御物語のたまふ序に「都にいふなる事はいかゞあらむとすらむ。さもあらばいとこそうらやましからめ」とうちおほせられて、火をつらつらとながめさせ給へる御まみの、忍ぶとすれどいたうしぐれさせ給へるを見奉るに、中將も心づよからずいとかなし。いかばかりの道ならばかゝる御ありさまを見おき聞えながら、うきふる里にはいでかへらむと思ふもえきこえやらず。後夜の御行にさながらおはしませば、鹽風いとたかう吹きくるに霰の音さへたへがたく聞えて、いみじう寒き夜の氷を