Page:Kokubun taikan 07.pdf/737

提供:Wikisource
このページは校正済みです

ましゝ御事にて、世下り時衰へぬるすゑにはあまりたる御ありさまにや、かくもおはしますらむとさへせめては思ひ給へよらるゝ」など大かたの世につけてもげにとおぼゆるふしぶし加へて、のどやかにてみきなど所につけてことそぎあらあらしけれど、さる方にしなしてよきほどにて、下しつるあづまよりの使歸りきたるけしきしるけれど、ことさらにいひいづる事もなし。いかならむと胸うちつぶれて覺ゆるもかつはいと心よわしかし。いづくの島もりとなれらむもあぢきなく、たれも千とせの松ならぬ世になかなか心づくしこそまさらめ。遂に遁るまじき道はとてもかくてもおなじ事、そのきはの心亂れなくだにあらば、すゞしき方にも赴きなむと思ふ。心はこゝろとして、都の方もこひしうあはれにさすがなる事ぞ多かりける。よろづにつけて事の氣色を見るに行く末遠くはあるまじかめりとさとりぬ。あづかり顏のめかしくも情ありて思ひしらすれば、おなじうはと思ひて又の日「頭おろさむとなむ思ふ」といへば、「いとあはれなる事にこそ。あづまの聞えやいかゞと思ひ給ふれど、なんでふことかは」とてゆるしつ。かくいふはみな月の十九日なり。かの事は今日なめりと氣色見しりぬ。思ひまうけながらも猶ためしなかりけるむくいのほどいかゞ淺くはおぼえむ。

  「消えかゝる露のいのちのはてはみつさてもあづまのすゑぞゆかしき」。

猶も思ふ心のあるなめりとにくき口つきなりかし。その日の暮つかた、終にそこにて失はれにけり。今はのきはもさこそ心の中はありけめど、いたく人わろうもなくあるべき事ども思へるさまになむ見えける。內侍の待ちきく心ちいかばかりかはありけむ。やがてさまかへて