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じうおぼさる。かしこに參り給へる內侍三位の御腹にも御子たちあまたおはします。いづれもいまだいはけなき御程にはあれど、物おぼし知りていみじう戀ひ聞え給ひつゝ、をりをりは忍びてうち泣きなどし給ふ。をさなうものし給へば遠き國まではうつし奉らねど、もとの御後見をばあらためて西園寺大納言公宗の家にぞ渡し奉る。八つになり給ふぞ御このかみならむかし。北山におはするほど、夕暮のそらいと心すごう山風あらゝかに吹きて、常よりも物悲しくおぼされければ、
「庭松綠老秋風冷
薗竹葉繁白雪〈雲イ〉埋。
つくづくとながめくらして入あひのかねのおとにも君ぞこひしき」。
をさなき御心にはかなくうちひそみ給へるいとあはれなり。こゝもかしこも盡きせずおぼし歎くさまいはずとも皆推し量るべし。宮の宣旨もいたう時めきて三位してき。その御腹の若宮は花山院大納言師賢の御めのとにて、ことの外にかしづかれ給ひしも、この頃はひき忍びておはします。母君も世のうさに堪へずさまかへて、心深くうち行ひつゝ淚ばかりを友にてあかしくらすに、をば北の方さへうせたりときゝて時々いひかはしけるなま女房のもとより、程經てのちなりければ、
「うきにまた重ぬる夢を聞きながらおどろかさでもなげきこしかな」。
かへし、宣旨三位殿、
「うきにまたかさなる夢を聞きながらおどろかさではなど歎きけむ」。