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守護といふものゝ目代よりはおそましきをすゑたれば、武家のなびきにてのみおほやけざまの事はよろづおろそかにぞしける。葛城の大君をみちの國へ遣したりけむもかくやとあはれなり。中務の御子も土佐におはしましつきて御おくりの武士にたまはせける。

  「思ひきやうらめしかりし武士のなごりを今日はしたふべしとは」。

かやうのたぐひあまた聞えしかど、何かはさのみ皆人もゆかしからずおぼさるらむとてなむ。都には三月廿二日御即位の行幸なれば世の中めでたくのゝしる。本院新院ひとつにたてまつりて待賢門院のほとりに御車立てゝ見奉らせ給ふ。よろづあるべきさまにとゝのほりてめでたし。まことや中宮はそのまゝに御ぐしもたぐる時もなく沈み給へる御ありさまいとことわりに、遠き御別のかなしさにうちそへて御胸のやすきまもなくおぼしこがる。后の位もとゞめられたまひて院號のさだめなど人のうへのやうにほのかに聞しめすもうれしからぬ世なり。禮成門院とかや申すなり。年月は御身の人わらへなるさまにて天下のさわがれなりしをこそおぼし歎き、御門も苦しき事におぼしのたまはせけるに、今はなかなかそのすぢの事はかけてもおぼさず、さまざまなりし御修法の壇どもゝあとかたなく毀ちはてゝかきさましぬ。ひたすらに唯かゝる世のうさをのみおぼし惑ふに、日頃ふれど御ゆなども絕えて御覽じいれねば、そこはかとなくいとゞ損はれまさりてながらふべくも見え給はず。隱岐よりはたまさかの御消息などの通ふばかりにて、おぼつかなくいぶせき事多く積りゆくも、いつをあふせの限りともなく定なき世にやがてかくてやとぢめむとすらむとかたみにいみ