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「海內艾安之世城北花開之春、我君保宸臨於此處調樂懸於厥中。重課六義之言葉、屢賞數柯之濃花、奉梢疑出雲之昔雲再懸、滿庭省廻雪之昨雪猶殘。雖風情憖瀝露詠。其詞曰

   時をえてみゆきかひある庭の面にはなもさかりのいろやひさしき」。

御製、

  「代々の御幸のあとゝ思へば」

このかみわすれ侍る。後にも見いだしてぞ。中務のみこ、

  「代々をへてたえじとぞ思ふこの宿の花にみゆきのあとをかさねて」。

誰も誰もこのすぢにのみ惑はれて花のみゆきの外はめづらしきふしもなければ、さのみしるしがたし。よろづ飽かず名殘多かれどさのみはにて九日に歸らせ給ひぬ。其の夏の頃御門例ならずおはしまして御藥の事などきこゆ。いと重くのみならせ給ふとて世の中あわてたるさまなり。時しもあれや、かの一年とられたりし俊基を又いかに聞ゆる事の出できたるにか、からめとらむとしければ內へ逃げてまゐるを、おひさわぎて陣のほとりまでものゝふどもうち圍みのゝしれば、こは何事と聞きわくまでもなし。いとものさわがしくきもつぶれてあるかぎり惑ひあへり。うへも物覺え給はぬ御ありさまにて大殿ごもれるに、かゝるよし奏すればいみじうおぼさる。遂に又の日六波羅へつかはしたればあづまへゐてくだりぬ。うへは御惱をこたらせ給ひて、いとゞ安からずおぼす事まされり。日頃も御心にかけさせ給へる事なれば速にこのあらまし遂げてむとひたぶるにおぼしたちて、忍びてこゝかしこにその