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きざきもさる事にてこそ侍りけめ。八日御所あらはしとてうへ渡らせ給へば、袖口ども心ことにてわざとなくおしいださる。今日はおのおの紅のひとへがさね、靑朽葉のうはぎ、二藍のから衣なり。大納言殿もさぶらはせ給ふ。うへも御だいまゐる。二位殿御陪膳、女御のは一條殿つかまつり給ふ。女御の君は蘇芳のはり、一重がさね、紅のひへぎ、靑朽葉のうはぎ、赤色のから衣、二重おりもの、からのうすものゝ御裳、濃き綾の御袴、御ぐしいとうるはしくて盛にねびとゝのほり給へるいと見所おほくめでたし。御供に參り給へる人々、右大臣、內大臣、大納言左大將、花山院中納言、權大夫、殿上人どもあまたこゝかしこのうちはしわたどのなどにけしきばみつゝ群れ居たるも艷なる心ちすべし。上達部のけん盃はてゝ後、內の御方のめのとをはじめて內侍女官どもかない〈如元〉殿まで祿賜はる。十日の夕つ方下大所の御らんあり。臺盤所の北の御壺へまゐる同じそばのまにて內の御方御らんぜらる。やがて東面より女御も御らんず。二位殿一條殿二條殿をはじめて上﨟だつ人々あまたさぶらひ給ふ。御簾のとにも上達部あまたさぶらはる。いとはればれし。十四日又うちのうへ入らせ給ひて、こなたにて始めて御みききこしめせば南おもてへ出でさせ給ふ。女御蘇芳の御ひとへがさね、はぎのたてあをの御うはぎ、朽葉の御小袿、みな二重織物、綾の織物、すゞしの御袴、御紋竹たてわきをおる。うへは御ひきなほし、すゞしの御袴、櫑子まゐる。御陪膳は一條殿、今日よりはうちとけたる心ちにて女房どもいろいろの一重がさね、唐衣、さまざまめづらしき色どもをつくして、すゞしの袴に着かへたる今すこし見所そひなつかしきさまなり。とくせん櫑