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いみじう好ましげなり。事なりぬるにや、兩院、御門、春宮、大宮院、二條院、今出川院、春宮大夫などうちつゞき誦經の鐘のひゞきも耳驚くばかり所せうきこゆ。衆僧集會の鐘うちて後上達部御前の座に着く。階より東に關白左大臣、內大臣、花山院大納言〈長雅〉、源大納言〈通賴〉大炊御門大納言〈信嗣〉、右大將〈通基〉、春宮大夫〈實兼〉、左大將〈公守〉三條中納言〈實重〉、花山院中納言家敎、左衞門督公衡など侍ひたまふ。階より西に四條前〈四辻殿イ〉大納言〈隆親〉、春宮權大夫〈具守〉、權中納言〈宗冬〉四條宰相隆保、右衞門督爲世など祇候せられたり。內の上御引直衣、すゞしの御袴、本院御烏ばう子直衣、靑にびの御指貫、新院御なほし、あやの御指貫、春宮さくらの御直衣、あられにくわんのもん紫の御指貫いひしらずなまめかしう見えたまふ。今日はみな御簾の內におはします。大宮女院白き綾の三つ御衣、東二條院から織物の柳櫻の八つ紅梅のひねりあはせの御ひとへ、かばさくらの御小袿奉れり。姬宮紅のにほひ十紅梅の御小袿、萠黃の御ひとへ、赤色の御からぎぬ、すゞしの御袴たてまつれる常よりもことに美くしうぞ見えたまふ。おはしますらむとおもほすまのとほりに內のうへ常に御まじりたゞならず御心づかひして、御目とゞめたまふ。樂人舞人鳥向樂を奏す。けいろうを先だてゝ亂聲左右桙をふる。その後一越調の調子を吹きて樂人舞人、衆僧集會の所〈時イ〉にむかひて安樂鹽をふく。衆僧左右にわかれてまゐる。階の間よりのぼりて座につく。講師法印憲實、讀師僧正守助、導師高座にのぼりぬれば堂童子花籠をわかつ。杖とりの使公敦朝臣、杖を退けて舞を奏するほど、けしきばかりうちそゝぎたる春のあめ靑柳の絲に玉ぬくかと見えたり。一の舞久助といふものすこしねびて、いと