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も、かの御氣色のしかおはしましけるにや御かくれの後やがて內裏へ奉らせ給ひにしかば、それなどをぞ女院のうらめしき御事には院も思ひ聞えさせ給ひける。さてしもやはなれば、このよしをも關の東へぞのたまひつかはしける。內には花山院のおほきおとゞ、後院の別當にをされて世の中自らしたゝめさせ給ふ。もとよりいと華やかに今めかしき所おはする君にてよろづかどかどしうなむ。皇后宮かくれさせ給ひにし後はつきせぬ御なげきさめがたうて、所せき御ありさまもよたけういかで本意をも遂げてばやなどおぼされけり。故院の御はても過ぎさせ給へば、世の中色あらたまりて、華やかに人々の御歎の色も薄らぎゆくしもあはれなるならひなりかし。その夏春宮例にもおはしまさで日頃ふれば、內のうへ御胸つぶれて御修法や何やとさわがせ給ふ。和氣丹波のくすしども〈氏成春成〉、夜晝さぶらひて御藥の事いろいろにつかうまつれど、たゞおなじさまにのみおはす。いかなるべき御事にかとあさましうて、上もつとこの御方に渡らせ給ひて見奉らせ給ふに、御目の中大かた御身の色なども殊の外に黃に見えければいとあやしうて御壺〈一字脫子イ〉を召しよせて御覽ぜらる。紙をひたして見せらるゝにいみじう濃く出でたるきはたの色なり。いとあさましく「などかばかりの事を知り聞えざらむ」とて御氣色あしければ、藥師どもいたう畏り色をうしなふ。かばかりになりては御やいとなくてはまがまがしき御事出でくべしとおのおのおどろきさわぐ。いまだ例なき事はいかゞあるべきと定めかねらる。位にては唯一たびためしありけり。春宮にてはいまださる例なかりけれど、いかゞはせむとておぼし定む。七つにならせ給へばさらでだに心