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とおぼされけり。第二日の夜に入りて行幸もなる。五のまきの日の御捧物ども參りつどふ。さまざままねびつくしがたし。內の御捧物はかみや紙にかねを包みて、やないばこにすゑて頭辨ぞ持ちたる。次に新院女院だち宮々御かたがた皆そなたざまの宮司殿上人などもてつゞきたり。關白大臣などは座に着き給ふ。大中納言參議四位五位などはみづからの捧物をもちてわたる。おのおの心々にいどみつくしてさまざまをかしき中に、兵部卿隆親はしがいをはきて鳩の杖をつきていでたり。この杖をやがて捧物にもなしけり。しろがねにてひたうちにしてさきは金なり。結願の日は舞樂などいみじくおもしろくて過ぎぬ。又の年正月に忍びて新院と御方わかちの事したまふ。初は法皇御負なれば御勝むかひに上達部皆五節のまねをして、いろいろのきぬあつ妻にて「思の川〈つイ〉に船のよれかし」とはやしてまゐる。新院ひきつくろひて渡り給ふ。御みきいくかへりとなくきこしめさる。一つがひづゝの御引出物、伊勢物語の心とぞ聞えし。かねの地盤にしろがねのふせごにたきものくゆらかして、「山は不盡のねいつとなく」と、又銀の船にざかうのへそにて簑着たる男つくりて、「いざこととはむ都鳥」などさまざまいとなまめかしくをかしくせられけり。わざと事々しきさまにあらざりけり。こたみには新院比比勢〈三字よりこそイ〉人のまねをして「ぼんなうはくびにのる、杯は花にのる」とかやはやして法皇の御迎にまゐる。上達部のおとなび給へるなどは少しきやうきやうにや見えけむとおしはからる。この度は源氏の物語のこゝろにやありけむ、唐めいたる箱に金剛樹の數珠入れて五葉の枝につけたり。又齋院よりのくろぼう、梅の散りすぎたる枝につけなど