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成朝臣、光顯、御琵琶は新院、今出川中納言實兼、富小路三位公成、箏は大納言の二位殿、院の上この頃またなき御めしうど故入道相國の御むすめとぞ聞えし。又刑部卿〈中宮の御母〉少納言、新兵衞、男には良敎の大納言などぞひかれける。すぐれたる上手どもの手を盡し給ひけむは彌勒菩薩もいかばかりゑみを含み給ひけむ。御經一部は北野の御社ヘ御奉納、今一部と三部經は八幡へ御幸ありて籠め奉らせ給ふ。女院の書かせ坐しましたるは橫川にぞ籠められける。かくおなじ御心に佛法の御いとなみもやんごとなくのみおはしますこそ聖武天皇光明皇后の御ためしにやとありがたく承りしか。今年五月雨常よりもはれまなくて、伊勢の宮河も岸をひたして齋宮の御まゐりも御船なり。祭主も別の船にて御供仕うまつる。道すがら歌うたひ絲竹のしらべなどしておもしろく遊びくらす。御下りの後四年になりぬ。ふるきためしにまかせて准后の宣旨まゐる。御使に中院の少將爲定朝臣下りて事のよし申す。殿上に召して裳唐衣祿たまふ。舞踏してのち都の物がたりなどさるべきおとなだつ人々に少し聞えかはす。艷なる心ちして、たゞの宮腹ならばはかなし事なども聞えぬべけれど、かうがうしくけどほき御有樣なればすくよかにてまかでぬ。その年なが月の頃左のおとゞ〈近衞殿〉の日野山庄へ一院新院、大宮院御幸あり。世になききよらを盡さる。銀金の御皿ども、螺鈿の御臺、うち敷、めなれぬほどの事どもなり。院の御ぶん御小直衣、皆具、夜の御衾、白御太刀、御馬二疋、からあやぎよりようなどにて、二階つくられて、御草子箱、御硯は世々を經て重き寶の石なり。管絃の御厨子樂器いろいろの綾錦などにて造りておかる。女院の御かた新院の御ぶんなどもおな