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心ちはいとゞうきたちたるやうに思し召されて、ひたぶるにとられむよりは、われとやのきなましと思し召すに、又高松殿のみくしげ殿參らせ給ひて、殿の華やかにもてなし奉らせ給ふべかなりとて例の事なれば、世の人さまざま定め申すを皇后宮聞かせ給ひて、いみじう喜ばせ給ふを、東宮はいとよかるべき事なれど、さだにあらばいとゞ我が思ふ事えせじ、猶かくてえあるまじく思しめされて御母宮に、しかじかとなむ思ふと聞えさせ給へば、「更なりや、いといとあるまじき御事なり。みくしげ殿の御事をこそ誠ならばすゝみ聞えさせ給はめ、更に更に思し召しよるまじき事なり」ときこえさせ給ひて、御物怪のするなりと御いのりどもせさせ給へど更に思しめしとゞまらぬ御心の中をいかでか世ひともきゝけむ。さてなむみくしげ殿參らせ奉り給へとも聞えさせ給ふべかなるなどいふ事殿の方にもきこゆれば、誠にさもおぼしゆるぎてのたまはせば、いかゞすべからむなどおぼす。さて東宮は遂におぼしめしたちぬ。さて後にみくしげ殿の御事もいはむに、なかなかそれはなどかなからむなどよき方ざまに思しめしけむ、不覺の事なりやな。壺切などの事ひがことにあめり。故三條院たびたび申させ給ひしかども、とかく申しやりて奉らせざりしとこそ聞き侍りしか。されば故院もさばれなくとも立てゞはとておはしましゝなり。しかるべきとはおのづからのことを申させて、皇后宮にもかくとも申させ給はず、唯御心のまゝに殿に御消息聞えむと思しめすに、むつましうさるべき人も物し給はねば、中宮の權大夫殿のおはします四條の坊門と西の洞院とは宮近きぞかし。そればかりをこと人よりはとや思しめしよりけむ。藏人なにがし