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り。上達部には御臺四本、殿上人には二なり。女房の中にもいろいろさまざまの風流のくだものついかさねなど、よしあるさまになまめかしうしなしてもて續きたる、こまかにうつくし。院のうへ梅壺のはなちいでに入らせたまふ。攝政殿左のおとゞ皆御供にさぶらひ給ふ。又の日の暮つかた又御舟にてまきの島、梅の島、橘の小島など御覽ぜらる。御あそびはじまる。舟のうちに樂器ども設けられたれば吹きたてたるものゝ音世にしらず、所がらはましておもしろう聞ゆるに、水の底にも耳とむるものやとそゞろ寒きほどなり。かのうばそくの宮の「へだてゝ見ゆる」とのたまひけむをちのしら浪もえんなるおとをそへたるは萬づをりからにや。廿三日還御の日ぞ御贈物ども奉り給ふ。御手本、和琴、御馬二疋まゐらせらる。院よりもあるじのおとゞに御馬奉り給ふ。院の御隨身どもけはひ殊にてほうだうの前の庭にひきいでたれば、衞門のすけ親朝親嗣二人うけとる。殿おり給ひて拜し給ふ。〈をかのや殿かねつねのおとゞの御事なり。〉その後賞おこなはる。左のおとゞ一品し給ふべきよし院のうへ自らのたまはすれば、又立ちいでゝなほしを奉りながら拜舞し給ふ。よろづ御心ゆくかぎり遊びのゝしらせ給ひて、かへらせ給ふまゝに、左大臣殿〈かねひら〉從一位したまふ。殿のけいし末より四品ゆるさせ給ふいとこよなし。寬治にはよしつね正四位下、保元に月の輪殿從下の四品をぞし給ひける。今の御有樣はかのふるきたしめしにも越えたり。いとめでたくおもしろし。還御の當日に女房のさうぞくかいぐいろいろにいと淸らなる十具、おのおのひらつゝみに長櫃にて大納言二位の曹司におくらる。又宰相三位のもとへも別に遣されけり。建久には夏なりしかばひとへがさね