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でに、院の御製、

  「川舟のさしていづくかわがならぬたびとはいはじやどゝさだめむ」

とかうじ上げたるほど、あるじのおとゞいみじう興じ給ふ。「この家のめいぼく今日に侍る」どぞのたまはする。げにさる事と聞く人皆ほこらしくなむ。おりゐ給へる太上天皇など聞ゆるは、思ひやりこそおとなびさたすぎ給へる心ちすれど、いまだみそぢにだに滿たせ給はねば、よろづ若うあいぎやうづきめでたくおはするに、時のおとなにて重々しかるべきおほきおとゞさへ、何わざをせむと御心にかなふべき御事をのみ思ひまはしつゝ、いかで珍しからむともてさわぎきこえ給へば、いみじうはえばえしきころなり。御門まして幼くおはしませば、はかなき御遊わざより外のいとなみなし。攝政殿さへ若くものし給へば、夜晝さぶらひ給ひて女房の中にまじりつゝ、らんご、貝おほひ、手まり、へんつきなどやうの事どもを、思ひ思ひにしつゝ日をくらし給へば、さぶらふ人々もうちとけにくゝ心づかひすめり。節會臨時の祭何くれの公事どもを、女房にまねばせて御覽ずれば、おほきおとゞ興じ申し給ひて、殊更ちひさき、笏など造らせて、あまた奉り給へば、うへも喜びおぼす。入道おほきおとゞの御女、大納言三位殿といふを關白になさる。按察の典侍、たかひらの女大納言典侍、中納言典侍、勾當內侍、辨內侍、少將內侍、かやうの人々皆男のつかさにあてゝ、その役をつとむ。いとからい事とて、わびあへるもをかし。中納言のすけを權大納言實雄の君になさるゝに、したうづはく事いかにも叶ふまじとて、曹司におるゝに、うへもいみじう笑はせ給ふ。辨內侍葦